2015年 2月22日                   日帰り
西上州、立岩3ルンゼ。


こんにちは。ギルです。
今回は、昇天の氷柱に続き、西上州は立岩3ルンゼを登攀しようと粉骨師匠とやってきました。

雪もほとんどなく、車で入れる最も奥のゲートのところまで入ることが出来ました。事前情報では取り付きまで1時間程度みたいです。

歩き始めて間もなく立派な滝が氷結しておりました。3ルンゼはそこから右手の沢を登っていきます。
その沢の右岸に差し込んでくる3番目のルンゼが目的地です。
やはり丁度1時間程度で取付きに到着。気温も高めで汗だくです。歩き続ける分には半袖でもって位の気温です。

登攀準備中。たまには自撮りして見ました。先行パーティが1組入っており、そのパーティのセカンドが登りきる頃に登攀開始です。

早速、F1を登る粉骨師匠。
アックスの刺さりは非常に良いのですが、そういう時はスクリューの効きが悪そうで少し心配です。X級位でしょうか、TRの私は余裕のウォーミングアップですが、まだトップでこんなとこ登れる気がしません。
フォローで上がった私がそのままつるべ状態でF2まで少し歩きます。


F2の取付きに着くと先行パーティのセカンドが中間部の核心部らしきを抜けて行くとこで、我々はギアの整理をしながら少し待ち、そのあとF2粉骨師匠トップで登攀開始です。

(この後は写真がないので小説風の描写に転じます)

F2の中間部の核心を越えて緩やかなエリアに抜けていき粉骨師匠がビレーポイントから見えなくなったそのあと。。。
突然ロープダウンの時のようにザイルが落ちて来たっ! 直感的に緊急事態である事を感じる「マジか? これはアカンやつやっ!」
上を見上げたその瞬間!放り投げられた人形のように粉骨師匠が降って来た?? 核心部の後ろ側の岩肌に1度ぶつかり、さらに下部の私のいるビレーポイントから約10m上部にあるテラスの上に、衝突に備える人間なら誰しもが発するあの呻き声とともにテラスに墜落。「ヴぅーー」ドスンっ?
背中? むしろ腰のあたりから落ちたように見えます。死んでしまってもおかしくない滑落とテラスへの衝突で完全に冷静さを失って思わす叫ぶ「大丈夫かーっ!!」
ダブルロープの片方にテンションがかかり宙吊りで逆さまの状態。しばらく返事がない。「死んだか?気を失っただけか?」色んな憶測が脳裏をよぎる。1人粉骨師匠を担いで車まで戻れるか?
実際にはテラスへの衝突から時間にしたら数秒だったはず。
見たもの、考えたことが多すぎて1秒が10倍位に長く感じていたと思う。
粉骨「ぐはぁ!!ヴゥァー」痛みを認識したのか、声をあげた。
「よかった生きてるっ!意識があるっ!」安否を気遣う私の声に返事は出来ていないものの右手をあげて大丈夫であることを伝えようとしていた。
粉骨「黄色のテンション緩めてっ!」どうやらアイゼンにザイル絡まっているようだった。そのザイルに足を持ち上げられて、体が逆さまになっているのだった。上部にいる先行パーティーからも救助を申し出る気遣いがあったが、粉骨自ら大丈夫ですと声を振り絞る。
私に身体が大丈夫な事を告げるとテラス上でセルフをとり呼吸を整えているから少し待てと指示が出た。冷静だ。
その数分間心が張り裂けそうな位、心配な気持ちが増幅していく。
安心するにはまだ早い。ギアの回収やこのF2を安全に下降、アプローチこそ手軽ではあったが、ここは氷瀑が連続するアルパインエリアなのだ。F1の下降と下山がある。とにかくまだなのだ。
心配で下から声を張り上げる。「ねぇ、本当に大丈夫なの?」「右側から巻いてフリー登れるからテラスまで助けに行くよっ!」焦りが先行する。
粉骨「だから待てって!今から支点作るからっ!」どうやら私がテラスまで上がるための支点を作り始めたようだった。自力では立ち上がることができない満身創痍の体で、アイススクリュー1本と、氷壁に打ち込んだアックスを使って支点を作り上げ、セカンドの私にテラスまで上がってこいと指示を出した。
安堵感とこれから私にかかるであろう肉体的、精神的プレッシャーにいろんな思いが交錯しながら粉骨師匠がいるテラスまでの登攀を開始するのであった。テラスに抜ける最後の2手3手が悪い。抜け口からテラスに顔を出し粉骨師匠の顔を見る、顔色は悪いが笑顔だ。「やっちまったぁ」って顔だ。それに俺も笑顔で声をかける「死んだら終わりやでぇ」
テラスに立ち上がり上部を見上げる。なぜ落ちたのか?
私の頭から少し上のテラスから3m程の所にアイススクリューが1本。さら2m程の所に半分まで打ち込んだスクリューにスリングをタイオフしてヌンチャクかけしたものが一本、これでテラスからさらに下まで墜落せずに済んだようだった。
このテラスから私がリードで上がり上部の残置のある立木に懸垂をセットし、立ち上がるのも辛そうな粉骨を含め全てを回収して下降、下山しなければならない。とにかく簡単そうな氷壁を選んでスクリューを多めに打ち込み、慎重に登って行く。
もうクライミングを楽しむのではなくて確実に懸垂ポイントまで登って安全に帰らなければならない。
上部に登って見ると先程のスクリューより上部にはランナーを取った跡がない。傾斜も緩やかで滑落するような難しい箇所も見当たらない。しかし、少し傾斜が急になり始めるところがあり、ランナーをとりたくなる様な場所があった。そこから滑落したのだろう。衝突したテラスまではゆうに10m強はあろうかと言う高さだった。
しかし、今は一刻も早く下山するのを最優先である。
滑落者でない私がもうこれ以上原因は考えずに一目散に懸垂ポイントまで向かうことにした。
直径10センチほどの立木はそんなに太くはない。西上州の岩質はもろく介助懸垂2人分の重量に耐えられるかどうかが唯一の心配だった。
懸垂ラインから大きく横方向に離れたアイススクリュー二本を何とか回収することができた。立ち上がることができない粉骨はまだテラスの上にぺったりと座ったまま心配そうにこちらを見ている。何とか全てを回収し粉骨師匠の所まで行き介助懸垂でF2のビレーポイントまで下降する。
もうこの時点で粉骨はかなりアドレナリンが分泌されているのか痛みはあるものの、這いずってF1の懸垂ポイントまでゆっくり自力で行くと言い、シリセードの様なスタイルで、ゆっくり下降。
私のザイル回収、F1懸垂セット中になんとかおりて来て、F1はなんとかソロで懸垂下降して取付きに到着。
後は歩いて来たアプローチを残すのみだが、時間をかければ戻れるだろう。自力で歩けなくてもおんぶすれば大丈夫。
下山は肩を貸しながら50分程度の仕事道を、二人三脚で3時間かけて降りてきた。車に着いた時、私は不思議な達成感があったが、粉骨師匠は諸々、方々への言い訳を考えているようだった。
下山の道中休憩中など、師匠は焦点があわずなにやら宇宙と交信しているようだった。初級者の私では励ましも、おふざけも釈迦に説法と思い、下山中や帰りは何も言わないようにした。
やはり大滑落で生きながらえたらメンタル的にも自身の中で消化しなくてはならない事が諸々のあるのだよねポンコツ師匠(笑) 良かった。良かった。


注)粉骨師匠自身の事故報告があると思いますので、原因、怪我の程度、その後の病院搬送等のレポは控えさせていただきます